NTT株式会社は、長年運用されている既存システムのドキュメントやコード、テストを解析し、成果物間のトレーサビリティ自動構築やテスト自動生成を行うことで、既存ソフトウェア資産をAIが理解・活用しやすい「AI-Ready」な状態へ変換する技術を確立したと発表しました。予備実験において、ドキュメントとコードの不整合検出率が従来手法(RAG)の27%から80%に向上したほか、既存の潜在バグを3件検出したとしています。
既存システムにおける追加開発の課題と開発背景
NTTによると、生成AIを活用したソフトウェア開発の効率化は新規開発を中心に進んでいるものの、『ソフトウェア開発分析データ集2022』によればソフトウェア開発の約6割は改修・保守・再開発を行う「追加開発」が占めています。
長年運用されているシステムでは、改修を重ねる過程で仕様書や設計書などのドキュメントと実際のソースコードの内容に乖離が生じることがあります。これにより、修正箇所の特定や影響範囲の確認に多くの工数を要するだけでなく、生成AI自体もシステムの構造や仕様を正確に把握することが困難になります。さらに、既存機能のテストが十分に整備・自動化されていない場合は検証作業や品質説明の手間が増加し、開発者の負担となっている点を課題として挙げています。

Mr.ガジェット開発全体の約6割を占める追加開発では、長期運用による設計書とコードの不一致がAI活用の大きな障壁となっていました。
Ms.ガジェット新規開発だけでなく、運用が長く続いている既存システムの保守に生成AIをどう活かすかは現場にとって切実なテーマですね。
確立された2つの技術と取り組みの概要
今回発表された取り組みでは、既存ソフトウェア資産(仕様書、設計書、コード、テストなどの成果物)をAIが理解・活用できる「AI-Ready」な状態に変換するため、「トレーサビリティ解析技術」と「網羅的なテスト自動生成技術」の2つの技術が確立されました。

1. トレーサビリティ解析技術
要求工学に関するISO等の国際標準やガイドラインに基づき、各成果物の構成と関係性を自動的に構造化する技術です。会議ログなどの開発意図情報、仕様書、設計書、コード、テストケースといった分散した成果物を対象とします。
ドキュメントごとに記載形式や情報量が異なる問題に対しては、各文章が特定機能とどの程度関連するかを評価し、内容に応じて分割粒度を動的に調整します。これにより、意味を保った機能単位への分割が可能になります。また、前工程の要点を基に後工程の情報を復元して情報量や粒度をそろえることで依存関係を判定し、工程間の記載漏れや不整合を高精度に把握できるトレーサビリティ情報へ変換します。

Mr.ガジェット国際標準に基づき、文章の関連度から分割粒度を動的に調整して成果物同士の整合性を判定する仕組みです。
Ms.ガジェット形式や粒度がバラバラな過去の資料同士を、AIが読めるように整えてくれるのは心強い技術だと感じます。
2. 網羅的なテスト自動生成技術
整合性を確保した仕様・設計・コードと、ISO品質特性に基づき、システムの各機能をどの観点から確認すべきかを整理した「テスト観点空間」を構築します。蓄積された既存テストをこの空間に対応づけることで、確認済み領域と不足領域を可視化します。
これにより、正常系に比べて不足しやすい異常系や境界値、複数条件の組み合わせ、機能間連携時の振る舞いといった検証不足の観点を具体的に特定します。不足部分に対しては決定表などの体系的なテスト技法を適用し、既存のテスト資産を活かしながら変更影響を網羅する自動実行可能なテストを生成します。

Mr.ガジェットテスト観点空間を構築して未確認領域を可視化し、決定表などの手法で異常系や境界値のテストを体系的に補完します。
Ms.ガジェット手作業では漏れてしまいがちな境界値や異常系のケースを、体系的に洗い出せるアプローチは心強いですね。
予備実験の結果と検証データ
NTTは、Macchinetta Frameworkのサンプルアプリケーション「ATRS」を用いてドキュメントとコードを準備し、確立した2つの技術の有効性を検証する予備実験を実施しました。
Ms.ガジェット公開サンプルアプリを用いた予備実験で、具体的な数字として検証効果が示されている点に興味を持ちました。
トレーサビリティ解析技術の評価
設計書に意図的に埋め込んだ41件の誤り(仕様書やコードとの矛盾、抜け漏れなど)を対象に検出評価が行われました。その結果、従来手法であるRAG(Retrieval-Augmented Generation)では11件(27%)の検出にとどまったのに対し、提案手法では33件(80%)を検出したと報告されています。
| 手法 | 検出件数 | 検出率 |
|---|---|---|
| 従来手法(RAG) | 11/41 件 | 27% |
| 提案手法 | 33/41 件 | 80% |

NTTは、ソフトウェアレビューに関する既存研究(METRICS 2002)での平均欠陥検出率68%という事例に触れつつ、評価対象や条件が異なるため単純比較はできないとしながらも、今回の80%という検出率はその水準を上回る結果となったと述べています。
Mr.ガジェットRAGによる単純な検索参照と異なり、成果物間の関係を構造化して照合したことで検出率が27%から80%へ向上しました。
Ms.ガジェット埋め込んだ誤りの検出率が従来のRAGと比べて大きく伸びていて、構造化の効果がはっきりと表れていますね。
網羅的なテスト自動生成技術の評価
約32 KSLOCのコード規模を踏まえて意図的に埋め込まれた6件のバグを対象に評価したところ、4件(67%)を検出しました。さらに、あらかじめ埋め込んだバグとは別に、入力検証やエラーメッセージに関するテストが網羅されていなかった箇所から既存の潜在バグを3件検出したとしています。なお、仕様書等から生成AIで直接テストを生成した場合には、これらのバグは検出できなかったと説明されています。
Mr.ガジェット生成AIへの一任ではなくテスト技法を組み合わせたことで、AI単体では見抜けなかった潜在バグを3件検出できています。
Ms.ガジェット事前に仕込んだバグだけでなく、元から潜んでいたバグまで見つけ出せたという結果には驚きました。
今後の展開と展示予定
NTTは今後、多様な規模や特性を持つ既存システムへの適用評価を進め、対応成果物、プログラミング言語、暗黙知の抽出・補完、品質観点およびテスト技法の拡充を図る方針です。実際の開発・保守案件へ適用し、システム理解から影響範囲の特定、改修、テスト生成・実行までを一気通貫で実施する有効性の検証を進めるとしています。
なお、本研究成果は2026年11月18日から25日に開催される「NTT R&D FORUM 2026」にて展示される予定です。
Ms.ガジェット対応言語の拡充や実際の案件への適用など、AI-Native開発への移行に向けた今後の検証の進展にも注目したいです。
- 本記事で使用している画像は、メディアユーザーとしてPR TIMESより提供されたプレスリリース素材を利用しています。

ドキュメントの整理とテスト生成という、追加開発で手間がかかりやすい2つの領域に焦点を当てている点に注目したいです。