株式会社安藤・間(以下、安藤ハザマ)、NTT株式会社(以下、NTT)、富士通グループの1FINITY株式会社(以下、1Finity)の3社は、安藤ハザマが施工を担当する山岳トンネル建設現場において、IOWN技術を活用した遠隔施工管理基盤の実証実験を実施しました。山岳トンネルの坑内は、日々の発破作業による瞬間的な振動や粉塵、湧水による湿潤環境など、通信設備にとって一般的なオフィスや局舎とは大きく異なる過酷な環境が揃っています。今回の取り組みは、IOWN Global Forumにおける「トンネル工事現場の革新に向けたユースケース」を進めるもので、坑内の8K映像や点群データといった大容量データを遠方のオフィスやデータセンタへ適時に伝送するための技術的有効性を検証しました。

実証実験の背景と目的
山岳トンネルの施工現場では、建設業界全体における人手不足や熟練技術者の高齢化に加え、災害リスクが高い切羽(トンネル工事の最奥部)近傍での作業が存在することから、遠隔施工管理の実現が求められています。しかし、従来の現場ネットワーク環境では、技術者の施工判断に必要な高精細映像や、レーザースキャナで取得した大量の3次元計測データをリアルタイムかつ安定的に伝送することが困難でした。
今回の実証実験は、トンネル坑内から遠隔拠点までのAPN(オールフォトニクス・ネットワーク)構築による大容量ネットワーク化を目的としています。切羽を含む坑内のデータを大容量伝送できる通信インフラは、遠隔監視、遠隔検査、遠隔解析、リモートモニタリングに加え、施工自動化・最適化を支えるAI活用、デジタルツイン構築、ロボットの遠隔制御などを実現するための基盤となります。3社は本検証を通じ、IOWN技術の建設業界への適用可能性を検証し、次世代通信インフラの標準化をめざすとしています。
Ms.ガジェット山岳トンネルの切羽周辺は落石などの危険が伴うため、大容量通信基盤の整備によって現場の安全確認作業をどこまで遠隔化できるかが注目されます。
椿原トンネル工事における実証環境とネットワーク構成
実証実験は、東海北陸自動車道(4車線化)椿原トンネル工事現場にて2026年3月に実施されました。トンネル坑内に光ファイバケーブルを1,100m敷設し、切羽から100m間隔で6台の光伝送装置を設置しました。さらに、IOWN APNを模擬した長距離通信環境を接続し、坑内と遠隔拠点間をつなぐ通信網を構築しています。

ネットワーク構成にあたっては、工事の進捗による延伸や複数ユースケースの同時利用に対応できるよう拡張性を考慮した設計が採用されました。山岳トンネルの現場では床置きラックが設置できないため、粉塵や振動、湧水に対応可能なIP65規格の収容箱に通信機器を収容し、壁面のワイヤに吊架する手法がとられています。また、電源設置間隔が100m程度離れている現場環境を想定し、トンネル坑内での大容量無線接続も組み合わせた構成となっています。
Ms.ガジェットトンネル工事は掘削に伴い坑内が延伸していく特性があるため、通信設備側にも容易な増設性と耐環境性が同時に求められます。
実証実験で確認された主な成果と検証結果
実証実験では、通信品質、耐環境性、無線通信の有効性、データ伝送能力、遠隔検査の5項目について検証が行われました。
| 検証項目 | 検証条件・環境 | 確認された主な結果 |
|---|---|---|
| 通信品質・安定性 | 1Finity Ultra Optical Systemを使用、24時間以上の連続稼働 | 光通信区間におけるパケットロスなし、ジッタ100ナノ秒以下を維持 |
| 耐環境性 | 粉塵・湧水・発破振動のある坑内、IP65収容箱を壁面ワイヤに吊架 | 過酷な地質環境下における通信機器の安定動作を確認 |
| 坑内無線通信 | WiGig(60GHz帯)を使用、設置間隔100m、遮蔽物あり | 1m離れた距離から0.2mmのひび割れを目視確認可能な通信帯域を確保 |
| 監視映像と計測データ伝送 | カメラ15台相当の映像通信を継続、レーザースキャナ点群約20GB | 映像監視を継続しながら、約20GBの3次元計測データを約1分間で伝送 |
| 遠隔臨場・検査 | 1,000km離れた拠点を模擬、4K映像および音声の双方向伝送 | 幅0.2mmのひび割れを目視確認、坑内照明下でのAI画像解析による検出にも成功 |
Ms.ガジェット1,000kmを模擬した長距離環境でありながら、映像監視の継続と点群データの高速転送を両立させた点が今回の実証の大きなポイントです。
通信品質と機器の耐環境性
通信品質の検証では、1Finity Ultra Optical Systemを組み合わせてトンネル坑内から遠隔拠点までの光通信ネットワークを構築しました。その結果、光通信ネットワーク区間においてパケットロスは検出されず、遅延のばらつきを示すジッタは概ね100ナノ秒以下を維持しました。24時間以上の連続稼働においても安定した通信品質が保たれており、通信断や遅延による作業中断リスクの低減が期待できるとしています。

耐環境性に関しては、粉塵や湧水といった厳しい条件の坑内において、IP65規格の収容箱内に設置された通信機器がトラブルなく稼働し続けることが確認されました。

Ms.ガジェット粉塵や湧水が常に存在する環境下でパケットロスなしと低ジッタを維持できた実績は、機器の保護設計を含めた堅実な成果といえます。
WiGigによる無線通信と大容量データ伝送の両立
坑内の任意箇所における通信手段として、60GHz帯を用いる無線LAN規格であるWiGig(IEEE 802.11ad)の評価が実施されました。通信機器の設置間隔である100m離れた位置で遮蔽物が存在する環境でも、1m離れた距離から0.2mmのひび割れを目視確認するために必要な通信帯域が確保できることが確認されました。施工の進行に伴って状況が変わる坑内において、光通信ネットワークと移動機器向けの無線機器を組み合わせる運用が可能になります。

さらに、複数箇所の同時監視と大容量データ伝送の両立についても検証が行われました。カメラ15台に相当する映像監視データの通信を坑内から継続させつつ、レーザースキャナで取得された約20GBの3次元点群データを、坑内から現場事務所へ約1分間で伝送することに成功しています。定常的なリアルタイム監視と詳細検査用データ伝送を並行して実施できるため、施工管理と品質検査の同時遂行や、非常時における施工継続判断の迅速化に寄与します。

Ms.ガジェット有線光ファイバの敷設だけでなくWiGigによる無線区間を組み合わせることで、重機や作業員の移動を妨げない柔軟な通信環境が成立しています。
1,000km長距離を模擬した遠隔検査とAIひび割れ検知
実証実験では、APN、坑内ネットワーク、無線ネットワークを接続した上で、1,000km離れた拠点を想定した遠隔検査環境が構築されました。4K映像と音声を伝送しながら遠隔拠点と現場がコミュニケーションを行い、国土交通省の施工管理基準などで対象とされる0.2mm幅の壁面ひび割れを目視で確認することに成功しました。

加えて、凹凸のある壁面画像を学習させたAIモデルを用い、トンネル坑内の照明環境下で撮影された映像からAI画像解析によってひび割れを検出することにも成功しました。目視検査をAIが支援することで、検査者の見落としリスクを減らし、壁面の異常を早期に検知できる体制の構築につながります。
Ms.ガジェット0.2mm幅のひび割れは目視基準としてもシビアな数値であり、4K映像伝送に加えてAI解析が坑内照明環境で機能した点は実用化に向けた好材料です。
実証実験における3社の役割分担
今回の実証実験において、参画した3社はそれぞれ以下の役割を担当しました。
- 安藤ハザマ:実証実験環境の準備、実証実験全体の推進を担当
- NTT:遠隔検査やAIを活用したひび割れ検知など、ユースケース検証のための無線およびシステム構築を担当
- 1Finity:IOWN APNを模擬した通信環境の構築、関連する技術的知見および伝送機器の提供を担当
安藤ハザマは2022年7月に建設業界で初めてIOWN Global Forumに加入し、ユースケース作成などを推進してきました。今後は開発中の「山岳トンネル統合型掘削管理システム(i-NATM)」の通信基盤としてIOWN技術の活用を進める予定です。NTTはIOWN構想の推進知見を活かし、コンピューティング・AI基盤との連携やインフラ保守技術の実装を検討します。1Finityはミッションクリティカル分野でのネットワーク技術を活かし、建設現場向けリファレンスモデルの高度化を図ります。
Ms.ガジェットゼネコンの施工ノウハウ、通信キャリアのシステム構築力、伝送装置ベンダーのハードウェア技術がそれぞれの専門分野で組み合わされています。
今後の展望と2027年度以降の実運用計画
3社は今後、複数のトンネル工事現場、遠隔オフィス、データセンタをIOWN APNの実環境で接続した運用トライアルへ展開する計画です。複数現場の一元管理による施工管理業務の効率化や、専門技術者が遠隔から支援を行う体制による現場人員配置の最適化をめざします。
さらに2027年度以降には、段階的な実運用に向けた検証を進め、実際の現場運用で得られた知見をもとに有効性を確認していく予定です。運用トライアルで得られた知見はIOWN Global Forumをはじめとする業界団体や建設業界へ展開され、次世代通信インフラの標準化への貢献が進められます。
Ms.ガジェット2027年度以降の実運用化に向けて、単一現場の検証から複数拠点の同時接続へフェーズが進む見込みです。
- 本記事で使用している画像は、メディアユーザーとしてPR TIMESより提供されたプレスリリース素材を利用しています。
