東京大学発AIスタートアップの燈株式会社は、建設業や製造業などのものづくり現場に向けた最適化AIエージェント「Spica(スピカ)」の提供を開始しました。本サービスは、設備レイアウトの策定や生産計画、人員配置といった複雑な業務の最適化を支援するソリューションです。すでに半導体工場などの建設計画に導入されており、初期検討の期間を従来の1ヶ月から1日へと短縮する実証結果が出ています。

最適化AIエージェント「Spica」の特徴とアプローチ
ものづくりの現場において熟練者は、配置場所や人数などの「決めるべき項目」、安全基準や稼働率といった「守るべき条件」、コストや作業効率などの「評価の基準」を総合して意思決定を行っています。しかし、その過程の多くは個人の暗黙知に依存しており、形式知化が進んでいない実態がありました。あらかじめすべての条件を人間が定義しなければならない従来の最適化ツールでは、こうした暗黙知をシステムへ正確に反映させることが困難でした。
Spicaは「判断基準を引き出す」アプローチを採用しています。AIが提示した提案に対して人が修正や承認を重ねるサイクルを通じ、熟練者自身も意識していなかった判断基準を抽出します。さらに、熟練者が下した判断の根拠を言語化してシステム内に蓄積するため、属人化しがちなノウハウを組織の資産として次世代へ継承することが可能です。
Mr.ガジェット熟練者の頭の中にある経験則は入力データ化しにくいものですが、AIの提案を修正する過程で条件を引き出す仕組みは興味深いアプローチです。
Ms.ガジェット最初から条件を網羅して入力する必要がないなら、現場のベテラン社員への負担も少なくなると期待できます。
設備レイアウト最適化の流れと運用プロセス
Spicaによる工場の設備レイアウト検討は、顧客から提供された図面やデータに基づいて制約条件を整理し、初期の最適案を提示することから始まります。実際の画面上では「配置できる区画」「設備同士の干渉」「柱の回避」といった物理的・運用的な制約条件が示され、その範囲内で生産量が最大化される配置レイアウトが提示されます。

初期案の提示後、現場担当者からのフィードバックを取り入れます。例えば製造課長から「裏面工程は北棟にまとめる」、保全担当から「斜めの壁に面した区画には生産装置を置かない」といった現場特有の要望が出された場合、Spicaはそれらを新たな制約条件として提示し、利用者が正しい内容を承認します。

承認された制約条件を反映してSpicaが再計算を実施した事例では、1日あたりの製品生産量が860枚から1,010枚へと向上しました。メタヒューリスティクスなどを活用して短時間で解を導き出すため、複数パターンの比較案を迅速に検討できます。

Spicaの導入効果と従来手法の比較
Spicaの導入により、検討にかかるスピードと最適化結果の質の双面で向上が確認されています。配置案や計画案の作成、条件変更時の再検討にかかる時間は従来比で大幅に削減され、比較可能な案の数も増大しています。
| 評価項目 | 従来の手法 | Spica導入後 |
|---|---|---|
| 配置案・計画案1件の作成時間 | 1ヶ月 | 1日 |
| 一度に比較できる案の数 | 3案 | 100案 |
| 条件変更から再検討までの時間 | 2週間 | 半日 |
最適化結果の質に関しても、設備投資額が従来比で5%削減され、工場の稼働率は従来比で7%向上した実績が示されています。
Mr.ガジェットレイアウト案の作成期間が1ヶ月から1日になり、比較できる案も3案から100案へ増えた数値は検討プロセスの大きな変化を示しています。
Ms.ガジェット検討期間が短縮されるだけでなく、設備投資額の削減や稼働率の向上まで出ている点は導入を考える企業にとって心強い指標になりそうです。
開発の背景にある国内ものづくりの構造的課題
日本の製造業および建設業の現場は、「働き手の減少」「熟練者の引退と技能継承」「国内工場投資の拡大」という3つの大きな構造変化に直面しています。試算によると、2040年には日本全体で約1,100万人の働き手が不足し、建設職においては必要人手の22.0%が不足すると見込まれています。製造業の就業者数も2024年の1,046万人から2025年には1,033万人へ減少し、34歳以下の若年層は258万人にとどまります。
また、建設業では就業者の約4割を55歳以上が占める一方、29歳以下は約1割にとどまります。製造業でも技能継承が「うまくいっている」「ややうまくいっている」と答えた企業は計33.3%に過ぎず、85.4%の企業が将来の技能継承に不安を抱えています。さらに政府が「AI・半導体産業基盤強化フレーム」に基づき、2030年度までの7年間に10兆円以上の公的支援を行い、10年間で50兆円を超える官民投資を促すなど、国内の大型設備投資が加速していることも背景に挙げられます。
Ms.ガジェット技能継承に不安を抱える企業が8割を超えている現状を聞くと、暗黙知を言語化して残せるツールの必要性がよく分かります。
執行役員 DX Solution事業本部 VPoE 丸尾恭四郎氏のコメント
燈株式会社の執行役員 DX Solution事業本部 VPoEを務める丸尾恭四郎氏は、サービス開発について次のように述べています。
「燈のエンジニアはこれまで、現場の最前線に深く入り込み、熟練者の言葉に耳を傾けながら生産性向上に取り組んでまいりました。『Spica』は、私たちが現場に向き合い続ける中で生み出したサービスです。単に与えられた課題を解くのではなく、熟練者の方々と共に課題の本質を見極め、解決へと導くエンジニアリングの過程そのものをプロダクト化しました。エンジニア、AI、そして現場のお客様が三位一体となり、日本の産業の未来を切り拓いてまいります」

Ms.ガジェット現場に深く入り込んで課題を解くエンジニアリングの過程自体をプロダクト化したという丸尾氏の言葉がとても印象的でした。
- 本記事で使用している画像は、メディアユーザーとしてPR TIMESより提供されたプレスリリース素材を利用しています。

現場担当者のフィードバックを反映して再計算することで、日産の生産量が860枚から1,010枚まで伸びている結果には驚きました。