Spacechips社のAI1トランスポンダ・ボードにVicorの電源モジュールが採用
Vicor Corporationは、Spacechip社が同社のAI1トランスポンダ・ボードに、Vicorの電源モジュールを採用したと発表しました。この発表は、2025年12月6日(米国東部時間)に行われました。

小型人工衛星への需要の高まり
5年から10年に及ぶ長期ミッションを実現するため、高度な演算能力と高い信頼性・堅牢性を備えるオンボードプロセッサシステムを搭載した小型人工衛星への需要が高まっています。最新のウルトラディープサブミクロンFPGAやASICの電力供給ネットワークの限界が押し広げられています。

これらの高性能プロセッサは、低電圧・大電流という厳しい電源要件を持つ上、宇宙空間における温度管理や放射線対策も加わるため、システム設計は複雑化しています。
Spacechips社のAI1トランスポンダについて
Spacechip社は、ACAP (Adaptive Compute Acceleration Platform適応型演算アクセラレーションプラットフォーム) AIアクセラレータを搭載した小型オンボードプロセッサカード、AI1トランスポンダを発表しました。このトランスポンダは、最大133TOPS(毎秒133兆回の演算)という高い性能を持つとのことです。

AI1トランスポンダは、地球観測、宇宙空間での保守・組立・製造(ISAM)、電気信号の傍受(SIGINT)、情報・監視・偵察(ISR)、通信分野で新しいアプリケーションを可能にするとSpacechips社は見ています。これにより、リアルタイムかつ自律的なコンピューティングが実現するとともに、長期ミッションの完遂に求められる高い信頼性と耐久性も確保できます。
軌道上でのAI処理の重要性
SpacechipsのCEOラジャン・ベディ博士は、「ほとんどの人工衛星は、リアルタイム処理のために取得した全データを地上にダウンロードするのに十分な無線周波数帯域を持ちません」と述べています。その代替として、軌道上で処理を完結させ、AIによる分析結果のみを地上にダウンリンクする方法が注目されています。

SpacechipsのAI1プロセッサを搭載した軌道上AIにより、森林火災、火山活動、産業事故などが引き起こす温度異常の検知が可能になります。これにより、非常事態発生時に最も影響を受けやすい火災多発地域を、迅速かつ的確に判断することができます。
AI1トランスポンダの活用例
Spacechipsは、高性能のAI演算エンジンを活用した軌道上AIによって、地上と宇宙のさまざまな問題に対処することを目指しています。具体的な活用例として、以下の点が挙げられています。

- 宇宙デブリを追跡し、重大な衝突事故を回避
- ミッションに不可欠な衛星システムの健全性を監視
- 悪天候パターンの検出
- 農作物の生産に重要な降雨データの報告
Vicorのファクトライズド・パワー・アーキテクチャ(FPA)
宇宙は制約の多い運用環境であり、AI搭載のコンピューティングには高精度の電源管理が不可欠です。Spacechipsは、高電力密度の電源モジュールを用いたVicorのFPAを、SpacechipsのAI1トランスポンダボードに組み込みました。

FPAでは、DC-DC変換を機能毎に独立したモジュールに分割して、電力供給システムを組み立てます。Vicorの放射線耐性のモジュールは、バスコンバータモジュール(BCM)、プレレギュレータモジュール(PRM)、電圧変換モジュール(VTM)またはカレントマルチプライヤで構成されています。
Vicorのソリューションのメリット
ベディ氏によれば、Vicorのソリューションの価値は、極めて小型で高電力密度である点です。そのためサイズと重量の削減ができ、高効率でフレキシブルな設計が可能で、特にハイパフォーマンスコンピューティングのアプリケーションにおいては、より高い電力密度が得られます。
VicorのFPA電力供給システムを採用することで、通信トラフィックの状況に応じて、使用するRF周波数帯、チャネル管理、変調方式、通信規格を自律的に変更しながらリアルタイムのオンボード処理を行うことが可能になります。さらに、Vicorのコンバータモジュールは電力変換部が二重化されており、宇宙用途向けに冗長構成の電力変換部が各々100%の負荷を取ることができます。
Spacechips社の評価
ベディ氏は、「VicorのFPAによるソリューションは、きわめて小さいサイズに納まり、とても洗練されて効率が良い」と述べています。「市場のあらゆる製品と比べて、まさに桁違いに優れている」と評価しています。
SpacechipsとVicorは、軌道上で運用する、最も電力密度が高く信頼性の高いプロセッサ・ボードの設計に共同で取り組んだとのことです。
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